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多くの妄想と少しの現実で構成されるブログ
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Thut-The thing which unifies time and wisdom-

第十四話「親と子」







「………これは?」

画面に表示されていたのは、とあるアーティストのライブイベントの情報だった。
独特な表現手法や、レコーディングに多彩な楽器やSEを使うことで最近有名になってきたアーティストだ。

「昨日ここの代表に一通のメールが届いた」

パチンとエンターキーを押すと、ライブ情報が表示されたブラウザから、メーラへと切り替わる。
そこにはひどく短い文面のメールが、転送扱いで表示されていた。

「……またありきたりな脅迫状だな」

内容はいたって単純かつ直接的。
このライブを中止しなければ、武力行使によってライブをつぶさせてもらう、というものだ。

「まぁ、おおかたわかってるとは思うけど、この脅迫の内容を阻止して、犯人を確保してほしいってのが今回の依頼」
「ここ最近の躍進を妬んだ他のアーティストかアンチの仕業じゃないのか?この程度だったら俺たちが出張るまでもないだろ」

この程度の依頼なら、民間の警備会社やフリーの護衛部隊を雇えば問題なく片付くだろう。
過去十数年間で、飛躍的に凶悪犯罪が増加している日本では、それに対抗する手段としてのビジネスが発達している。
ガードマンやボディーガード程度なら、普通の家庭でも雇えるくらいの市場価格で取引されているし、大きな企業のトップともなれば私設部隊を所有している人間も珍しくはない。
また、腕のいいガードマンは、一定の企業や団体に縛られることなくフリー、つまり傭兵として働いているなどと、今では完全に日本経済の一角を担う産業へと昇華されているのだ。
この背景には、警察では増加する犯罪に対処しきれなくなったというものと、事後にならないと動けない警察では安心できないといった世間の風潮があったりする。
そして、政財界及び裏社会諸々色んなコネクションのある冬馬のところには、ときたまこのような傭兵派遣の依頼も来るのだ。

「それがな、会場にはあまりその手の人間をいれたくないらしい」
「ライブの雰囲気をぶち壊すから?理解できなくはないけど……」

その手の人間、つまり傭兵や警備会社の社員は、言ってしまえば目つきが悪い。
普通にしているだけで「自分はその道の人間です」とアピールしてしまうのだ。
感覚としては、刑事やヤクザの方が放つオーラに近いものだと思ってもらえばいい。
そんな人間が警備目的とは大量にライブ会場にいれば確実に浮いてしまい、最悪しらけてしまう。
ライブというのは雰囲気が一番重要であるといっても過言ではない、客のテンションが低ければ演奏する側もやりにくくてしょうがない。
その点においては詩織の言うように理解できないわけではないが……

「かといってなぁ……脅迫内容は“ライブを潰す”、だろ?会場の外側に配置しただけじゃまったく警備にならないな」
「そこでお前さんたちに頼みたいのさ、二人なら客の年齢層的にも問題はないし、何より人数が少なくてすむ、そしてなんだが……」


冬馬は躊躇いがちに口を開こうとして、一旦閉じる。
それからトントンと、モバイルのディスプレイを叩くと、メモ帳を開いて文字を打ち込み始めた。
学食という喧騒の中で、誰も話を聞いていないとしても、万一を考えて筆談(?)にするようだ。
二人でモバイルのディスプレイを覗き込む。

『この楽団の代表なんだが……お前らと同じなんだよ』
『同じって?』

パチパチと詩織が返事を打ち込む。

『要するに魔法使いってことさ』
「……はぁ!?」

思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

「ちょ、朔夜、大声上げないの!!」
「……あ、あぁすまん」
『なにかあったのか?』

冬馬は動ずることなく話を進める。

『ちょっとまて、おかしいぞ』
『あぁ、局の名簿に載ってないってことか?』
『知ってるのか?』
『すこし前に、四姫の件で局のデータベースを漁ったときには、こんな名前は名簿になかったぞ』

覚醒者を保護した時の対応に関するマニュアルを探し、また過去の事例からヒントを得ようとしていた時に局員として登録されていない、
守秘契約を交わして普通の世界に戻っていった覚醒者のリストをたまたま見つけたのだ。
その中にはいくつか、テレビなどのマスメディアによく名前が載る人間もいたし、政界、財界、学会、それぞれの分野の重鎮の名前もあった。
だが、そのときに見た限りでは今話題にあがっている名前は見当たらなかったはずである。
確かに自分は、最近の流行などには疎いが、流石にこの楽団の代表の名前ぐらいは頭の片隅に記憶していたので間違いない。

『そりゃそうだ、この名前は代表としての名前、つまり芸名だからな』
『だとしても、ここまで有名なら資料に補足で載っていてもおかしくはないだろう』
『あの資料は名前や住所、生年月日に血液型、魔力値や場合によっては魔法適正くらいしか必須記入項目じゃないから、
本人の意思で職業とかその他諸々の個人情報は掲載の可否を決められるんだよ、朔夜が知らないとは思わなかったけど』

キーボードによる筆談に詩織が参加し、少々窮屈になってきた。

『そーだったのかー』
『そーダッタン人の踊り。つーわけで、この依頼、受けてくれるか?』
『脅迫状の差出人がどの程度本気なのかはわからんが、いいだろう、お前のいうとおり、俺たちにピッタリの任務みたいだからな』
『私も了承、ちょっとこのバンドには興味あったしね』
『ありがとう、助かるぜ』

メモ帳を閉じ、今までの記録を破棄して、専用ツールでハードディスク上からも完全に消去すると、冬馬はパタンとモバイルを閉じた。

「詳細はまただな、当日まで時間はまだあるし、先方との調整もあるから」
「その調整に俺たちは参加したほうが?」
「うんにゃ、必要なし。連絡するまで四姫と戯れていてくんろ」

冬馬はひらひらと手をふり、冷めてしまったカレー汁に取り掛かった。



―――――


「そういえば朔夜、帰りにレンタルショップに寄らなきゃね」
「へ?」

昼飯直後の体育の授業で、詩織が唐突にそんなことを切り出してきた。
空腹を満たすと人間は眠くなる。
だったらそこに運動をぶち込めば寝ないだろう、みたいな思惑があるのかどうかはわからないが、
週に一回、二クラスで組んで体育の合同授業がある日が、この学校には存在する。
そして、現在、俺のクラスは詩織の四組と合同、しかも男女混合というカオスなソフトボールに興じていた。

「だってほら、今度の仕事は流行のアーティストのライブの警備でしょ?だったら多少は予習しておかなきゃ」
「あー、なるほど」

ただいま四回の裏、俺と詩織の割り振られたチームは攻撃に回っている。
先程の攻撃回で、俺はラストバッター一つ前だった、故にしばらく打順は回ってこない。
ならば炎天下の中待っていることもなかろうということで、詩織と一緒に木陰へ避難してきたのだ。

「夕飯の買い物のついでに寄っていくか」
「今日のメニューは?」
「未定」
「あっ、じゃあじゃあ、エビピラフ食べたい!」

エビピラフ、ふむ。
学校指定のジャージから携帯を取り出して、テキストエディタを起動する。

「ん?何それ?」
「この辺のスーパーの広告データ。エビが広告の品になってる店を探してるんだよ」
「へぇ~、それって配信とかされてるの?」
「いや、俺が新聞に挟まってた奴を毎朝打ち込んでる」
「げ、マジで。なんかすごく所帯じみてるよ朔夜……」
「誰のせいだ誰の」

こつんと、詩織の頭を小突く。
詩織は決して料理ができない女ではない。
が、なぜか作らないのだ。
理由を聞いても毎回煙に巻かれてしまうため、本当のところを聞いたことが無い。
……まぁ、作るのも食べてもらうのも好きだからいいのだが。

「おい、さぁくや」

パコン、と頭に軽い衝撃を受けて、顔を上げる。
すると先ほどまでファーストについていた冬馬が、汗を滴らせて立っていた。

「仲睦まじいのはいいんですがね、そういうのは家に帰ってからにしれ!」

言い放って、もう一度グローブでバコンと俺の頭を強打すると、そこかしこから拍手が起こった。






―――――


「………ふぅ」

試験終了のチャイムとともに、見直しをしていた解答用紙から手を放す。
一日をかけて行った、英数国社理五教科の試験。
難易度としては、さほど難しくはなかったが、それでも少し疲れた。
解答用紙を回収した監督官が、特に不備がないことを確認し、退出を許可する。

それに従い、部屋を出てから、コンセントレーションを解くために軽く伸びをすると、窓のむこうの高等部校舎が目に入った。
時刻は既に四時を回っており、殺人的な暑さを誇っていた可視光線も穏やかになり、空を黄昏の色に染め始めている。

(さすがに高等部も授業は終わってるよね、朔夜さんは確か部活に入ってないっていってたし)

カバンから財布を取り出し、一枚の紙片――――即ち、朔夜から渡された式神――――を抜き取る。
自分で書き込むリングタイプのメモ帳のような大きさと質感をもつそれには、朱墨と普通の墨で書かれた文字で彩られている。
が、あまりにも達筆すぎるため、なんと書いてあるかはまったく読めない。
今までに、朔夜や詩織から借りて読んだ本や、二人の話から考えるに、ここに書かれているのはこの紙片を式神にするための呪文、
正確を記すならば、文系魔法なのだろうが……

(何度見ても不思議なんだよなー)

あの二人が、日常の鍛錬としてぶっ放した極彩色の光。
あまりにも鮮やか過ぎるその魔法は、体を揺らし、耳朶を打つ衝撃と爆音がなければ、CGかVFXのようだ。
見ているだけではそれがまさか、人を傷つけ、あまつさえ殺めてしまうような業だとは思えない。
しかし自分が、それを為しうるだけの力を持っている、ということは、制御術を体得した今では、はっきりと自覚していた。

「えっと、確か命令するだけでいいんだっけ?」

もう一度まじまじと、紙片を見つめて、今朝、校門のところで朔夜に言われた、式神の召喚方法を思い起こし、

「行けっ」と小声で呟いてみた。

……………………………

…………………………

……………………

…………………

………………

………ぶわさっ

数瞬の沈黙の後、紙片は、質量を無視して、白い鳩に変化した。

「ひゃっ!」

その変化があまりに突然で、しかも結構大きな羽音を立てて現れたため、思わず声を上げてしまう。

(びっくりした……)

しばし呆然としたあと、まだここは校舎内であることを思い出す。
慌てて、誰かに見られていないかあたりを見渡すが、幸いなことに誰も近くにいないようだった。

(うー、せめて外に出てからにすべきだったなぁ)

軽い後悔と同時に、安堵して、胸をなでおろすと、手近な窓を開く。

「それじゃ、式神さん、お願いします」

言葉が通じるかどうかは定かではないが、一応お願いの言葉をかけて、高等部へと放った。
その影が視認できなくなるまで見送り、しっかり窓を施錠して、広い校舎を今朝歩いたルートとは逆にたどって昇降口へと歩みを進める。

昇降口の、来客用下駄箱で靴を履き替えて外に出ると、空は完全に黄昏色に染まっていた。
気温はだいぶ下がったようだが、まとわりつくような湿気はいまだにその勢力の余波を残しており、不快指数は少々高めである。

校門まで歩いて、近くにあったベンチへと腰を落ち着ける。
中等部から高等部までは徒歩でおよそ30分、朔夜が向かえにくるにはまだだいぶ時間がありそうだった。
古宮の屋敷から、着たきり雀で救出されたため、あいにくと暇をつぶせるような代物は持ち合わせていない。
こんな時間でこんなシチュエーションならば、ステッキにシルクハットの胡散臭い紳士が現れ、頼んでもいないのに話相手になってくれそうなものだが、
帰宅部の生徒はとっくに下校し、部活に所属している生徒はその活動の真っ最中、校門とはいえまだ学園の敷地内であるこの場所は、自分以外の人間は一人も居なかった。
そうなれば、ただ無為無策に時が過ぎるのを待つしかないのだが、30分、下手すればそれ以上の時間をぼうっと過ごすのは、どうにも耐えがたい。

(―――――そういえば、お父さんとお母さんはどうしてるのかな?)

わが娘が、覚醒したことを知るや、有無を言わせず、暗く狭い部屋へと押し込めた父。
日本はおろか、世界を牛耳る企業グループの総帥である父とは、物心ついたときから、あまり親子らしい交流はなかったように思える。
もし自分が男であったのなら、まだ状況は違っていたのであろう。
ジェンダーフリーや、男女共同参画社会云々が叫ばれたのは産まれてくる数十年前のことで、今では女性の企業主、国家元首などは珍しいわけではない。
しかし今もなお、貴族、華族の流れを連綿と紡いできた古宮家では、いまだに男尊女卑の風習が、血縁者限定で適用される。
そんな状況にあれば、得体の知れない力を持った娘に、あのような対応をとることも、理解できなくはない。
無論、冷静に考えれば異常とも言える行動だろう。古宮の力があれば、しかるべき機関―――魔法統制管理局―――にコネクションが無いわけではあるまいし、
そうでなくとも、血を分けた娘の大事であれば、あの手この手を尽くすのが、親というものだろう。

(そう考えると、お父さんは、私を子供と捉えていないんだろうな)

初めて認識する事実、しかし、そこに悲壮感や怒りという感情は存在しない。
思い返して、数えるほどしか口を利いたことのない人間に対し愛情など、血がつながっていたとしても、湧きようがないのかもしれない。
親子ならば、口に出さなくとも云々、という話は世の中に掃いて捨てるほど存在するが、現実はそれほど甘くはないのだ。
魔法、とりわけ文系の立場で考えるならば、言葉にしなければ、つまり言霊を生まなければ、人の心は動かない。
実際、改めて考えてみれば、自分も父親に対しては扶養に対する感謝こそあれ、愛情は無いことに気がつく。

(でも、お母さんは……)

父の秘書をしている母は、女同士ということで、忙しい身ではあるが、都合がつけば我が子のことを気にかけ、ちょくちょく顔を合わせていた。
最後に会ったのは丁度覚醒する三日前で、一緒に外食をし、買い物なども楽しんだ。
それ以来会っておらず、娘が覚醒したことに関して父がどのような説明を母にしたかはわからないが、いずれにせよ隠しとおせることでは無い。
だとしたら、母は心配しているかもしれない。この一週間近く、色々なことがありすぎてゆっくり考える時間が無かったが、今にしてみれば、それはとても重要なことに思えた。

(ダメ元で朔夜さんに聞いてみるか……)

暗く、湿っぽく、狭い部屋で、徐々に近づいてくる惨劇の足音を、消し飛ばし、光とともに現れた漆黒の魔法使い。
そしてそのまま自分を救い出し、フィジカル面もメンタル面もケアを施し、力の制御を教授し、あまつさえ、今日のように、普通の世界に戻れるように手を尽くしてくれた大恩人。
ただでさえ迷惑をかけているのに、母と連絡を取りたいなどというわがままが許されるとは思えない。しかしこれ以上母に心配をさせるのは忍びない。

(しっかり恩返しはしなきゃだめだよね)

何の力も持たない自分が返せる恩といえば、しっかりと、教わった魔法制御を忘れないようにして、落ち着くまでこの学校で元気に暮らしていくことくらいだろうか。
もしくは、制御にとどまらずに、自分を救ってくれた術である魔法を身につけ、彼らと同じように働いて、今度は自分自身が誰かを救う立場になる、というのも悪くはない。
朔夜から、魔法の歴史について学び、あの綺麗な魔法を目にした後では、それを自分が身に着けるという考えは、ひどく魅力的に思えた。

「待たせたな!」

それについても、帰ったら朔夜に相談しよう、と思ったところで、聞き覚えのないバリトンが思考をさえぎった。
思いがけず深い思考の淵に沈みこんでいたことに驚きつつ、顔を上げるとそこには細身の体躯に銀縁メガネをかけた、確か秋葉の兄だという男子生徒と、
たった一週間強の付き合いであるのに、兄や姉のような存在になりつつある、朔夜と詩織が苦笑しながらこちらに向かっていた。

「げほっ、流石にあの声はつらいな」
「馬ァ鹿、無理してそんな声を出すからだって、そもそも四姫に元ネタがわかるわけないだろ」
「お疲れ、じゃ、帰ろっか?」

詩織が差し出した手を握って立ち上がり、笑顔で頷いた。











to be continued.....
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HN:
上城 遊馬
性別:
男性
自己紹介:
前のハンドルは宇宙飛行士な名前だったり。
三流国立大学の隅っこで映像制作をする不良大学生です。
アウトドア派でクリエイター気取り。
ぬるぬると文章を書き連ねておりますのオタク。
東方大好き、MGS大好き、特撮大好き、アニメ大好き、小説大好き、料理大好き、キャンプ大好きな人間です。

もうちょっとしたらPixivの小説投稿を本格的に始めようかな……
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